「親のお金のことは、なんとなく聞きづらい」── そう感じているご家族は、とても多いものです。元気に暮らしているご両親に、お金の話を切り出すのは、どこか不躾なようで、つい後回しにしてしまいます。けれども、いざ介護や入院が必要になったとき、ご本人の通帳や保険のことが家族に分からず、慌ててしまう ── そんな場面は決して珍しくありません。
お金の話は、財産を当てにする話ではありません。ご本人が望む暮らしを支え、いざというときに家族が困らないための「備え」の話です。本記事では、ご両親と気まずくならずにお金の話を始めるための、心構えと具体的な進め方を整理してご紹介します。なお、制度の詳細や個別の判断については、専門家にご相談ください。
「お金が目的ではない」と、まず伝える
お金の話を切り出すとき、いちばん大切なのは「あなたの財産が目的ではない」という気持ちが、きちんと伝わることです。唐突に通帳のことを尋ねると、ご本人は「財産を狙っているのか」と身構えてしまいかねません。
「お父さんが入院したとき、支払いで困らないようにしておきたい」「お母さんの希望どおりにお金を使えるように、知っておきたい」── そんなふうに、ご本人のための備えであることを、はっきり言葉にして伝えてください。目的が共有できてはじめて、お金の話は前向きな相談になります。
把握しておきたいのは「ありか」と「種類」
お金の話といっても、金額そのものを細かく聞き出す必要はありません。いざというときに家族が困らないために知っておきたいのは、主に「何が・どこにあるか」です。
取引のある金融機関、保険に入っているかどうか、年金の受け取り先、大切な書類や印鑑の保管場所 ── こうした「ありか」と「種類」を、おおまかに共有しておくだけでも、もしものときの備えになります。金額の細部よりも、「いざというとき、どこを見ればよいか」を家族が分かっていることが大切です。
日常の延長で、少しずつ尋ねる
改まって「お金の話があるんだけど」と切り出すと、お互いに身構えてしまいます。それよりも、ふだんの会話の延長で、折にふれて少しずつ尋ねていくほうが、自然に進みます。
「最近、ネットバンキングって使ってる?」「保険って、どこかに入ってたっけ?」── テレビのニュースや身近な話題をきっかけに、軽く触れてみる。一度にすべてを聞き出そうとせず、何回かに分けて、少しずつ。そうして積み重ねた会話が、いつのまにかご家族の安心につながっていきます。
管理が負担になる前に、知っておきたい仕組み
年齢を重ねると、契約や財産の管理を、ご本人おひとりで行うのが負担に感じられる場面も出てきます。そうしたときに、ご本人の暮らしと財産を守るための公的な仕組みがあることを、知っておくと安心です。
代表的なものに、家庭裁判所が関わってご本人の財産管理などを支える「成年後見制度」や、家族の間で財産の管理を託す「家族信託」といった仕組みがあります。どちらも、ご本人の意思を尊重しながら暮らしを支えるためのものです。ただし、内容や手続きは専門的で、ご家庭の事情によって向き不向きもあります。関心があれば、早めに専門家や相談窓口で詳しい説明を受けてみてください。
迷ったら、専門家や公的な窓口へ
お金や財産のことは、ご家庭ごとに事情が大きく異なり、家族だけで判断するのが難しい場面も少なくありません。そんなときは、無理に家族だけで抱え込まず、専門家や公的な窓口の力を借りるのがいちばんです。
弁護士・司法書士・税理士といった専門家のほか、お住まいの地域の地域包括支援センターや、市区町村の相談窓口でも、まず相談先を案内してもらえます。「誰に聞けばよいか分からない」というときの最初の一歩として、こうした窓口を頼ってみてください。
希望もあわせて、書き留めておく
お金のことを話す機会は、ご本人がこれからの暮らしについてどう望んでいるかを伺う、よい折でもあります。どんな暮らしをしたいか、お金をどんなことに使いたいか ── そうした希望も、お金の「ありか」とあわせて書き留めておくと、家族がご本人の思いを大切にしやすくなります。
市販のエンディングノートや、ふだん使いのノートに、会話のたびにひと項目ずつ書き足していくくらいで十分です。暮らしの希望に的をしぼって書き留めていく「介護希望書」という考え方も、こうした対話の入口として役立ちます。一度にまとめようとせず、折にふれて少しずつ重ねていきましょう。
お金の話は、切り出しにくいテーマです。けれども、それはご本人の望む暮らしを守り、ご家族がいざというときに困らないための、大切な備えでもあります。財産そのものよりも、「ご本人の思いを支えるために知っておく」という姿勢が、何より大切です。
一度にすべてを話す必要はありません。気まずくならない範囲で、ふだんの会話の延長から、少しずつ。迷ったときは、専門家や地域の窓口を頼ってください。Norolu は、ご家族が大切な備えを重ねていくその歩みに、そっと寄り添ってまいります。