雨の日に玄関先で傘を開くと、パッと広がる音がして、和紙や生地の匂いがふわりと漂う。そんな情景を覚えていらっしゃる方も多いはずです。和紙と竹でできた番傘、黒くて重たいこうもり傘。ひと昔前の傘は、今の透明なビニール傘とはずいぶん違う存在でした。
雨具は毎日の暮らしに欠かせない道具でありながら、その姿は時代とともに大きく変わってきました。ここでは、番傘やこうもり傘からビニール傘へと移り変わってきた雨具のうつりかわりを、昔と今をくらべながら振り返ってみます。手にした傘のずしりとした重み、雨だれの音、傘立てに並んだ家族の傘。そんな懐かしい情景がよみがえるかもしれません。
番傘・こうもり傘から透明なビニール傘へ
番傘は太い竹の骨に和紙を張り、油を引いて水をはじくよう仕上げたもので、開くと丸くふっくらとした形になりました。こうもり傘は洋風の折りたたみ式の傘で、その名のとおり広げた姿がこうもりの羽を思わせたと言われています。黒や紺の落ち着いた色が多く、大人が差すと少し改まった雰囲気がありました。
今のビニール傘は骨も生地も軽く、透き通っていて、雨空の下でも前がよく見えます。同じ傘でも、素材も見た目もずいぶん変わったものです。
大切に差した傘、張り替えて長く使った習慣
番傘や和傘は、和紙が破れても骨がしっかりしていれば紙を張り替えて使い続けられました。町には傘の張り替えや修理を引き受けるお店もあり、こうもり傘の骨が折れれば直してもらったものです。傘は買うと決して安い買い物ではなく、名前を書いて自分の傘とわかるようにした家庭もありました。
今はビニール傘が手ごろな値段で売られ、うっかり置き忘れてもそれほど惜しくない、という感覚に変わってきました。物を直して使い続けた昔の暮らしぶりが、傘一本にもあらわれています。
傘立てに並んだ家族の傘、今はコンビニで手軽に
お父さんの大きな黒い傘、お母さんの少し華やかな傘、子どもの小さな傘。玄関の傘立てを見れば、家族の顔ぶれがなんとなく浮かんできたものです。出かける前には空を見上げ、雨が降りそうな日は忘れずに傘を持って出る、そんな習慣も自然と身についていました。
今は天気が急に崩れても、駅前やコンビニで数百円出せば傘が買えます。備えて持ち歩くというより、必要になったらその場で手に入れる。傘との付き合い方も、暮らしの変化とともに移り変わってきました。
傘を差すと聞こえた音、匂い、そして軽さ
番傘に雨が当たると、和紙をたたく雨だれがぽつぽつ、ざあざあと響き、それがまた雨の日らしい風情でした。油を引いた和紙からはほのかに独特の匂いが漂い、こうもり傘は骨組みがしっかりしているぶん、手にするとずしりと重みがありました。開くときのぎしっという音も懐かしいものです。
今のビニール傘や布傘は軽くて片手でも扱いやすく、さっと開いてさっと畳めます。雨の音の聞こえ方も、傘そのものの手ざわりも、素材が変わったことで大きく変わりました。
蛇の目傘の柄や色、今は前が見える透明さ
蛇の目傘は、傘の面に輪の模様を描いた和傘で、その模様が蛇の目に似ていることからそう呼ばれました。赤や紺の地に白い輪が浮かぶ姿は、雨の景色に彩りを添えたものです。着物姿に和傘を差した後ろ姿は、今思い返しても絵になる情景でした。
今のビニール傘は模様や色よりも、透き通っていて雨の中でも視界が開けることが大切にされています。人ごみの中でも前が見え、ぶつかりにくいという実用の良さがあります。飾りの趣を楽しんだ昔と、見やすさを大切にする今。どちらにもそれぞれの良さがあります。
長く使う道具だった雨具、気軽に持つ今
番傘や蛇の目傘は、使い終われば軒下で陰干しして乾かし、しまう前にていねいに畳んでおくものでした。ひとつの傘を何年も使い、家族で受け継ぐこともあったほどです。雨合羽やゴム長靴も、破れれば繕い、汚れれば拭いて、大事に使い続けました。
今はビニール傘が手軽に買えるぶん、急な雨をしのいだあとは置き忘れてしまったり、一度きりの用に済ませてしまったりすることもあります。暮らしが便利になった一方で、道具を大切にいたわった昔の心持ちには、また違った味わいがあったように感じられます。
傘一本を思い返してみると、雨の日のさまざまな情景がよみがえってきます。番傘に落ちる雨の音、こうもり傘のずしりとした重み、傘立てに並んだ家族の傘。皆さんのご家庭では、どんな傘を使っていらっしゃいましたか。
雨の日にまつわる思い出は、人それぞれに違ったものがあるはずです。忘れられない一本の傘や、雨宿りのひとこまを、ぜひご家族やお知り合いと語り合ってみてください。昔話に花が咲き、雨の日がいっそう楽しいひとときになりますように。