玄関の戸棚を開けると、たたまれた風呂敷が何枚か重なっている。そんな家がめずらしくなかった時代がありました。えんじ色や紺の無地、唐草模様の緑、桜や松をあしらった一枚。用がなくてもきちんとたたんで、いつでも取り出せるようにしまってあったものです。
四角い布が一枚あれば、本の束もお弁当箱も、いただきものの菓子折りも、みんな包んで持ち運べました。角と角を結ぶ、ただそれだけのことなのに、荷物の大きさや形にぴたりと寄り添う。今の折りたためるエコバッグと、包むという役割は同じでも、そこにある工夫の姿はずいぶん違います。物を包んで運ぶ暮らしの、昔と今をならべてみましょう。
包む道具=一枚の風呂敷と、用途別のエコバッグ
かつては大判の風呂敷が一枚あれば、それをどう結ぶかで小さな包みにも大きな荷物にもなりました。二つの角をきゅっと結んで手提げにしたり、四つ角をまとめて大きなふろしき包みにしたり。布は同じでも、手の動かし方で姿を変えたのです。
今は買い物用のマイバッグ、保冷が効くバッグ、レジかごにそのまま乗せる大きなものと、目的ごとに別々の袋を持つのがふつうになりました。スーパーのレジ前で、鞄からさっと広げて詰めていく光景も、すっかり日常の風景です。一枚で何役もこなした布と、役割ごとに分かれた袋。持ち歩く物の数は変わっても、その日の荷物に合わせて選ぶ気持ちは、どこか似ています。
贈り物とお弁当=布で包んだ心づかい
お使いものの菓子折りを風呂敷でくるみ、先方に着いたら結び目をほどいて、布はたたんで持ち帰る。包んだまま渡すのではなく、中身だけを差し出すのが礼儀とされ、その一連の所作にも心づかいがにじんでいました。
お弁当も、アルミの弁当箱をハンカチほどの小ぶりな布で包み、結び目を持ち手にして提げていったものです。今は保冷バッグやランチトートに入れ、お店の品はきれいな紙袋や手提げ袋に入れて手渡します。包む道具は変わっても、相手を思って荷物をととのえる気持ちは、昔も今も変わらず受け継がれています。
受け継ぐ知恵=結び方と、たたみ方の工夫
祖母や母が荷物を包む手元を、子どもがそばで見て覚える。真結びのしかた、瓶を二本まとめて提げる包み方、すいかを丸ごと運ぶ大きな結び方。そうした手の知恵が、暮らしのなかで自然と伝わっていきました。
今のエコバッグは、くるくると巻いて小さなポーチにおさめたり、四角くたたんでゴムで留めたりと、しまい方に工夫があります。鞄の隅にいつも一つ入れておく人も多いでしょう。結ぶ知恵からたたむ工夫へ。かたちは変わっても、身近な道具を手際よく扱う楽しさは、今も暮らしのなかに生きています。
一枚で何にでも=布の融通と、豊富なサイズ・素材
風呂敷はやわらかい木綿や絹で、包むものの形にしなやかに沿いました。角ばった箱も、丸い瓶も、細長い掛け軸も、同じ一枚がくるりと受けとめる。ふだんは小さくたためて、いざとなれば大きく広がる、その懐の深さが便利だったのです。
今のバッグは、小ぶりなものから大容量のもの、軽い化学繊維から丈夫な帆布まで、選ぶ楽しみがあります。冷たいものを入れる保冷タイプ、重い米や飲料を運べる頑丈なタイプと、荷物に合わせてぴったりの一つを選べます。一枚で何にでも対応した融通の良さと、たくさんの中から選べる豊かさ。どちらにも、暮らしを軽くする工夫が込められています。
繰り返し使う=当たり前だった習慣と、今の見直し
風呂敷は使い捨てるものではなく、たたんでしまい、また次に使う。破れれば繕い、色があせても手放さずに長く連れ添いました。物を大切にする暮らしのなかで、繰り返し使うことはことさら意識するまでもない、ごくふつうのことでした。
今はレジ袋を減らそうという流れのなかで、マイバッグを持ち歩くことがすっかり定着しました。買い物のたびに袋をもらわず、自分の一つを繰り返し使う。ことばこそ新しくなりましたが、一枚を長く大事に使ってきた風呂敷の暮らしと、根っこにある考え方はよく似ています。昔ながらの習慣が、かたちを変えて今によみがえっているようです。
身近な布から、おしゃれな柄へ=見直される風呂敷
たんすの上に掛けた布、座布団を包んだ布、旅の荷物をまとめた布。特別なものではなく、家のあちこちで働く日用品でした。唐草模様や無地の一枚が、暮らしにしっくりと溶けこんでいたのです。
近ごろは、鮮やかな色や現代的な図案の風呂敷が売り場に並び、ワインボトルを包んだり、手提げ風に結んで小さな鞄がわりにしたりと、あたらしい使い方も広がっています。エコバッグの一つとして風呂敷を選ぶ人も出てきました。かつての実用の布が、今は装いの一枚として楽しまれている。めぐりめぐって、また身近なところへ戻ってきたのかもしれません。
結び方ひとつで姿を変えた風呂敷も、くるりとたためる今のエコバッグも、大切なものを包んで運ぶという役割はずっと変わりません。押し入れの奥に一枚、なつかしい風呂敷が眠っていないでしょうか。取り出して広げてみれば、あの頃の情景がふっとよみがえるかもしれません。
お使いに持たされた菓子折りのこと、お弁当を提げて出かけた朝のこと。ご家族やお孫さんと、包み方や柄の思い出を語り合ってみてください。一枚の布をめぐる昔話は、きっと食卓をあたたかく彩ってくれるはずです。