「ジーコ、ジーコ」とダイヤルを回す音、受話器を取り上げたときのずっしりとした重み。黒電話は、ただ電話をかける道具というだけでなく、玄関や茶の間にどっしりと構える、家の顔のような存在でした。受話器のコードを指でくるくるといじりながら話した記憶のある方も、きっと多いことでしょう。
あれから時代は移り、今では一人ひとりがスマートフォンを手にする時代になりました。連絡のとり方は驚くほど便利になりましたが、当時ならではの作法や工夫には、なんとも言えない味わいがあります。電話をめぐる「昔」と「今」を、家族みんなで思い出しながらたどってみましょう。
家に一台か、一人に一台か
かつて黒電話は、玄関の靴箱の上や茶の間の決まった場所に置かれ、家族みんなで共有するものでした。電話台の上に小さな座布団のような敷物を敷き、その横にメモ帳と鉛筆を備えておくのが定番の風景です。誰かが長電話をしていると、ほかの家族はそわそわしながら順番を待ったものでした。
今では一人ひとりがポケットやかばんに自分の電話を入れて持ち歩き、いつでも自分あての連絡を受け取れるようになっています。電話といえば家に一台だけだった昔から、家族それぞれが自分の一台を持つ今へ。
ダイヤルを回すか、画面をふれるか
黒電話は、円い穴に指を入れて回し、カチカチと戻るのを待ってから次の数字へと進みました。「0」や「9」など大きな数字が並ぶ相手だと、一回ごとの待ち時間が意外に長く、かけ終えるまでにちょっとした手間がかかったものです。回している途中で指が滑ると、また最初からかけ直し。
今のスマートフォンなら、画面の数字を軽くふれるだけ、あるいは声で名前を伝えるだけで相手につながり、あの待つ時間はすっかりなくなりました。番号の数だけ指でダイヤルを回した昔と、画面を指先でふれるだけの今です。
番号を覚えるか、端末が覚えるか
実家や親しい友人の電話番号を、何も見ずにすらすらと言えた方も多いはずです。玄関の電話のそばには、表紙のすり切れた電話帳や、家族の連絡先を書き込んだ小さなノートが置かれていました。年賀状の整理をしながら住所と一緒に番号を書き写す、そんな年末の風景もありました。
今ではスマートフォンに名前を登録しておけば、番号そのものを覚えていなくても、一覧から選ぶだけで電話がかけられます。大切な番号を頭で暗記したり手帳に書き留めた昔と、端末が連絡先をまるごと記憶してくれる今です。
親が取り次ぐか、本人に直接つながるか
友人の家にかければ、まずはそのお父さんやお母さんが受話器を取り、「いつもお世話になっております」と挨拶を交わすのが当たり前でした。「○○さんはいらっしゃいますか」と丁寧にお願いし、相手が出るまで受話器を持って待ちます。家族の誰が電話に出るか分からないからこそ、言葉づかいにも自然と気を配ったものです。
今では相手の電話に直接つながるので、こうした取り次ぎのやりとりは少なくなりましたが、あの一手間には人と人との温かな間合いがありました。家の電話に出た人がいったん取り次いだ昔と、呼びたい相手に直接つながる今です。
公衆電話を探すか、どこでもかけられるか
駅前や商店街の角、赤い電話や緑色の公衆電話を見つけては、十円玉や百円玉、テレホンカードを握りしめて列に並びました。話し込んでいると硬貨が「チャリン」と落ち、慌てて次のお金を入れ足したことを覚えている方もいるでしょう。雨の日に電話ボックスへ駆け込んだり、相手が出ないとがっかりして受話器を戻したり。
今はスマートフォンを持っていれば、旅先からでも歩きながらでも連絡がとれ、公衆電話を探して歩く必要はなくなりました。外出先で公衆電話を探した昔と、どこにいても手元の電話からかけられる今です。
声だけ届くか、文字や姿も届くか
黒電話の時代は、相手の声の調子や息づかいから様子を想像し、耳を澄ませて話を聞いたものです。遠くに住む家族とは、声を聞けるだけでも特別なひととき。長距離の通話は料金もかさむため、用件を手短にまとめて話す工夫もありました。
今ではメッセージで気軽に言葉を送り合い、撮ったばかりの写真を添えたり、画面ごしにお互いの顔を見ながら話したりできます。声だけのやりとりだった昔から、文字や写真、顔を見ながらの通話までできる今へ。離れていても、すぐそばにいるように近況を分け合えるのは、なんともありがたいことです。
ダイヤルを回した黒電話から、画面にふれるスマートフォンへ。連絡のかたちは大きく変わりましたが、「相手とつながりたい」「声を聞きたい」という気持ちは、昔も今も少しも変わりません。
ご家族が集まったときには、「昔はどんなふうに電話をかけていた?」と、ぜひ思い出話に花を咲かせてみてください。公衆電話で並んだ思い出や、暗記していた番号の話。世代によって見えてきた景色は少しずつ違い、語り合ううちに、きっと笑顔のこぼれるひとときになるはずです。
電話やメッセージで交わしてきた言葉も、語り合った思い出も、ご家族の歩みそのものです。心に残ったお話をノートや一冊の記録に書きとめておけば、その時々の暮らしを、次の世代へとそのまま手渡していけます。