カンカン、チンチンと鐘を鳴らしながら、街の真ん中をゆっくり走る路面電車。鼻先がぐっと前に突き出たボンネットバスに揺られて、木の床のきしむ音を聞いた。そんな乗り物の記憶をお持ちの方も多いはずです。改札口では駅員さんが改札ばさみをカチカチと鳴らし、車掌さんは肩から下げた鞄から紙の切符を取り出して、手際よくパンチで穴をあけてくれました。
あれから乗り物の姿も、乗り方もずいぶん変わりました。今は段差の少ない低床の電車やバスが当たり前になり、財布から小銭を探さなくても、ICカードを機械にそっとタッチするだけで改札を抜けられます。ここでは、街の足だった乗り物の昔と今を、ひとつずつくらべてみましょう。きっと懐かしい光景がよみがえってきます。
街を走る電車のかたち
チンチン電車という呼び名は、運転士が足元のペダルを踏んで「チンチン」と鐘を鳴らしたことから生まれました。自動車や荷車と同じ道路の上をことことと進み、停留所では地面から直接ステップを上って乗り込みます。背の高い車体に木の窓枠、つり革が並ぶ車内は、夏は窓を開けて風を入れたものでした。
今の路面電車は床が道路すれすれまで低いLRTが各地に登場し、ベビーカーや車いすもそのまますっと乗れるようになりました。冷暖房が効いた静かな車内で、行き先や次の停留所は電光の文字で案内されます。同じレールの上を走りながら、乗り心地は別もののように変わりました。
鼻の長いバスから低い床のバスへ
ボンネットバスは、運転席の前にぐっと突き出たボンネットの中にエンジンが入っていました。乗り込むと床は木の板張りで、走るたびにギシギシと音を立て、エンジンの熱とガソリンのにおいがほんのり漂います。砂利道では車体ごと大きく跳ね、座席の背もたれにつかまって揺れに耐えたものでした。
今のバスは入口の段差がほとんどないノンステップバスが増え、お年を召した方も荷物を持った方も乗り降りが楽になりました。車体は四角く、室内は広く明るく、停留所の名前は音声と画面の両方で知らせてくれます。
車掌さんがいた頃
車掌さんは車内を歩いて運賃を集め、降りる人がいないか確かめて、「発車オーライ」と運転手に合図を送りました。混んだ車内をぬうように動き、切符を切り、両替もしてくれる頼もしい存在でした。子どもにとっては、制服姿の車掌さんが少しまぶしく見えたものです。
今は運転手がひとりで運転から運賃の確認までこなすワンマン運転が広がりました。降車を知らせるのは座席わきの押しボタンで、機械の音声が「次は止まります」と案内します。人の声の代わりに、ブザーとアナウンスが車内を案内するようになりました。
紙の切符とパンチの穴
窓口や券売機で買った硬い紙の切符には、車掌さんや駅員さんが小さなパンチでパチンと穴をあけました。穴のかたちは駅によって少しずつ違い、使い終わった切符を記念に持ち帰る人もいました。定期券は厚紙のケースに入れ、首から下げたり胸ポケットにしまったりしたものです。
今はICカードが一枚あれば、電車もバスもタッチするだけで乗れます。残りの金額は機械の画面にすぐ表示され、足りなくなったら券売機でチャージします。切符を買う列に並ぶことも、小さな紙をなくして慌てることも、ずいぶん減りました。
運賃の払い方
郊外のバスでは、乗るときに入口の機械から整理券を一枚取りました。前方の運賃表に番号と金額が並んで表示され、降りるときに自分の番号の運賃を運賃箱に入れます。ぴったりの小銭がないときは、走るバスの揺れの中で両替機に紙幣を通し、慌てて小銭をかき集めたものでした。
今はICカードを乗るときと降りるときにタッチすれば、運賃が自動で計算されて引き落とされます。スマートフォンの交通系アプリをかざして支払う人も増えました。小銭を数える手間がなくなり、降り際の流れもずいぶんなめらかになりました。
改札を抜けるとき
駅の改札口には駅員さんが立ち、片手に持った改札ばさみをカチカチと鳴らしていました。差し出された切符をリズムよく切り、流れるように次の人へ。朝のラッシュ時には、その小気味よい音が駅じゅうに響いていたものです。
今は自動改札機が並び、ICカードや切符をかざしたり通したりすると、扉が開いて通れます。あの改札ばさみの音は聞かれなくなりましたが、覚えている方には今でも耳に残る懐かしい響きでしょう。
道順の調べ方
初めての街へ出かけるときは、駅に貼られた路線図とにらめっこし、分厚い時刻表をめくって乗り換えを組み立てました。乗り継ぎの時間が合わずに駅で長く待ったり、目的のバスが一日に数本しかなくて予定を練り直したりするのも、旅の一部でした。
今は行き先を入れるだけで、乗り換え案内アプリが何時の電車に乗ればよいか、どのバスに乗り継げばよいかを教えてくれます。運賃や所要時間、乗り場まで画面に並びます。便利になった一方で、路線図を指でたどって道を探したあの時間も、忘れがたい思い出です。
乗り物が変われば、街の音も、出かけるときの気持ちも少しずつ変わっていきます。チンチン電車の鐘の音、木の床のきしみ、改札ばさみのカチカチという響き。今では聞かれなくなった音のひとつひとつに、その頃の暮らしや、一緒に出かけた人の顔が結びついています。
初めて整理券を取ったときのこと、車掌さんに切符を切ってもらったときのこと。ご家族やお仲間と、思い出のバスや電車の話をのんびり語り合ってみてください。あの頃乗った乗り物の話は、世代を越えて笑い合える楽しいひとときになるはずです。